能町みね子「逃北」

旅行をするなら、南の方に行きたい。寒いところに行きたいと思ったことがない。なので、この本にはあまり興味がそそられずにいた。

 

よりによって、ゴールデンウィークのど真ん中に、新潟へ法事に行くことになった。その日程の決め方があまりに不服で、親にもぶーぶー文句を言っていたが、言っていても仕方がないので、どうせ行くのなら新潟を起点にどこかへ旅行しよう、と気持ちを切り替えることにした。が、いかんせん北のほうに興味を持たずに来たので、どこへ行けばいいのか思いつかない。そこでこの本を読んでみた。

 

手に取る前のイメージとはかなり異なる本だった。いわゆる旅行記とはちょっと違う。能町さんが、大学を卒業して、会社員になって、辞めて、今の仕事を始められて、という変化の中で、どのように北に惹かれてきて、どんな北に逃げてきたか、という、半生、というと大袈裟だけど、そんなようなことが書かれている(挿絵の自画像もその時代によっていちいち異なっている)。大御所作家が編集者を連れて連載のためにあちこち行くような旅行記とは大違いだ。もっとずっとパーソナルな旅の記録。こうやって後年本にまとめられるような記録をきちんととっていた昔の能町さん、すごい。ありがとうございます。

 

新潟のことをあまり北だと思ったことはないが、能町さんのカテゴリーでは北に属するらしい。あと数日なのにまだちゃんと決めてないけど、法事の後は新潟から更に北上して、山形あたりをぶらぶらしようかなあ、と思っている。喫茶店でぼんやりするような旅にしたい。

 

 

逃北―つかれたときは北へ逃げます

逃北―つかれたときは北へ逃げます