クリスマスムードで賑わうプラザにて、幼稚園バッグを持って名札をつけた5歳くらいの男の子が、半ズボンのポケットに売り物のチョコレートを詰め込んでいた。あらら、と思ったが、きっと一緒に来ている親が近くにいて、注意をするだろう、とそのままにしていた。ところが、しばらくして、更に手にチョコレートの袋を持った彼が、一人で店を出て階段を下るのが見えた。しかも、手に持ったその一袋をなぜか階段の上において、更に降りて行く。ポケットのチョコレートはそのままだ。たまらず声をかけた。


チョコレート持って行っちゃだめじゃん。だってお金ないんだもん。ママは?おうちで待ってる。じゃあ私と一緒にチョコレート返しに行こうか。


階段に置いたチョコレートも拾って、手を繋いで売り場に戻る。動物や車の形でアルミに包まれたチョコレートが、ポケットに5つ入っていたのを全部棚に戻した。売り場には、10粒単位で570円です、と書いてあった。彼は、車の形のがどうしても諦めきれず、この一つだけ買うと言い出した。


これはね、10こじゃないと買えないんだって。570円もするんだよ。お金持ってないんでしょう? 持ってるもん。ほんと?じゃあ見せてみて? やだ。やっぱりないんでしょう。おうちに帰って、お願いしてみなよ。ね。


どんなに言っても、彼はこの車のチョコレートを買うと頑張り続けた。私が買ってあげることもできたけど、それはやはりいけないことなので、なんとか彼を諭してたら、分かった、と彼はどこかに行ってしまった。分かってくれたのか、諦めたのか。よく考えたら、そんな小さな子が一人で帰るなんておかしいし、時間も18:00近かったので幼稚園帰りにしては遅すぎる。ひょっとして迷子だったのかも、と思ったけど、その後彼は見当たらなかった。幼稚園バッグに大きく名前が書いてあったけど、「かなりやぐみ」ということしか覚えてない。あの子、ちゃんとおうちに帰れたのかな。